本日は主婦でありスカイランニング世界選手権日本代表でもある岩楯志帆さんに、スポーツとライフスタイルについてインタビューしました。

一戸:スカイランニングとはどんなスポーツですか?

岩楯:一言で言えば“スピード登山”です。ヨーロッパが発祥の標高2,000m以上で行なう競技です。陸上競技のようにいくつかの種目があって、短距離走のようなVK(ヴァーティカルキロメーター)は距離が5km未満で標高差1,000mの駆け登りレースです。距離が短ければ短いほど斜度がキツクなり四つん這いでよじ登る場合もあります。去年のスペインで開催された世界選手権は2.8kmで1,033m登るコースでした。他に20km以上のスカイレース、30km以上のスカイマラソン、50km以上や優勝タイムでも12時間を超えるウルトラ、とてもテクニカルでゴツゴツした岩場を行くスカイエクストリームなどがあります。また、スプリント系のスカイスピードという種目もあります。今年から距離300mで標高差100mを一気に駆け上がるレースが日本選手権の一つとして開催されることになり、さらに盛り上がりそうです。

一戸:トレイルランニングとの違いって何ですか?

岩楯:スカイランニングとの違いを分かりやすく言うと、トレイルランニングはアメリカが発祥で舗装されていない道を走る。必ずしも山でなくてもOK。日本では、ある程度長い距離を水平方向に移動すること、縦走するイメージ。スカイランニングは高所の山道を垂直方向に駆け上り駆け下る競技。VERTICAL=垂直 が重要。種目も明確に分かれています。

一戸:基本的に頂上ゴールですか?

岩楯:VKは頂上ゴールですが、その他の種目は登って下ります。下りが面白いんですよ。

一戸:その中でそれぞれ得意種目があるんですね?

岩楯:人それぞれ得意種目があって短い距離が得意な人はVK(ヴァーティカルキロメーター)だけ出てシリーズチャンピオンになるのもありだし、スカイレースが得意な人はスカイレースに絞ることもありです。距離が長くなると年齢も高くなる傾向がありますねぇ・・・

一戸:それってトライアスロンと同じですね

岩楯:若い人は瞬発的な筋力があるので短い距離が得意な人が多いですね。

一戸:岩楯さんは何が得意なんですか?

岩楯:私はいろんなのに出ているんですが、得意なのはスカイマラソン~ウルトラと言った長い方ですね、でも好きなのはVKですね。身軽に出られてすぐに終わるから。好きと得意はちょっと違うんですよね。

一戸:身軽に出られるんですか?

岩楯:VKであればほぼ何も持たない。水も持たない。レースで給水の必要があればエイドで補給する。安全管理上の規則でエイドは設置されています。ただ山なので天候の変化に備えてジャケットだけは持ちます。

一戸:コースが厳密に決まっているんですか?

岩楯:もちろん地形、特に環境と安全に配慮してコースは設定されていて、コースマーキングに沿って進んでいきます。でも、意識は垂直方向なのでスタートとゴールとチェックポイントを外さなければ比較的自由です。ヨーロッパの山は広大で、日本の山で見るような通るべき登山道がないフィールドも多々あって、斜度や地盤によって難易度は変わりますが、このラインを通れば速いなって思えばそこを行きます。ですからちょっとしたテクニックで差がつきますね。それが面白いところだと思います。とにかく上にも下にもいかに最短距離をとるか、直登直下です。

一戸:ヨーイドンで一斉にスタートするんですか?

岩楯:VKはタイムトライアルのように順番でスタートします。速い選手ほど遅いスタート順番です。一番速い選手が最後にスタートして、すごい勢いで追いかけてきます。抜かれたくないけど速い選手はカッコいいから観たいなぁという気持ちも。一斉スタートじゃないから速い選手をゴールでワクワクしながら迎えることもできるし、抜かれてもそれはそれで憧れの姿を間近に観ることができるし、すべてにエンターテインメント性があるんですよ。MCが選手一人ひとりを紹介してくれて皆がヒーロー、ヒロイン。チビッ子レースもあって家族みんなで盛り上がれるんです。

一戸:スカイランニングとの出会いと始めるキッカケは何だってんですか?

岩楯:元々スポーツするのが好きで、何でもやりたいんです。何をするにも走っておけばできると思って走ってました。それから結婚、出産でスポーツから離れていたけど、走ることは靴があればできるから上の子が5歳、下の子が3歳になったときにまた走り始めました。マラソンレースに出たいとかではなかったけど段々距離が伸びていきましたね。身体を動かしたかったんです。それからフルマラソンにも出るようになって10年くらい一人で走ってたんですけど、記録が伸びなくなってきて気分転換にトレイルランニングをやってみようと思って。でも一人じゃ分かんないし、どこかチームに入ろう、って思いながらいつものコースを走っていたら、前から走ってきた人から部員を募集してます。って名刺サイズのカード渡されたんです。そんなことってあるんだ!って驚きました。そのとき誘われた練習会に行ったらウルトラマラソンに出ている人や山を走っている人、いろんな人がいました。その後で代表者の方と話をする機会があってウルトラマラソンやトレラン、スカイランニングの話をされて「『おんたけ(御嶽)スカイレース』に出たかったら連れて行くよ」って言われました。それから富士登山競争に出る人たちに富士山での練習に連れて行ってもらうようになって、山を走ることがなんとなく分かり始めて楽しくなってきたときにレースに出てみようっと思ったんです。それで初心者向けのレースにエントリーしたんですけど、何となく聞いていた『おんたけスカイレース』の話が気になってしまって代表者に「まだエントリー間に合いますか?」って聞いたら「当日受付でも出られるくらいだよ(笑)」って連れて行ってもらったんです。結果的にそれが初レースになりました。何も分からず行ってみたらスカイレースって書いてあってコレがスカイレースなんだぁって思いながら出ました。今から7年前ですね。それからいろんなレースに出ましたけど『おんたけスカイレース』以上の山岳レースに出会えなかったんです。とても素晴らしかったんです。

一戸:何が素晴らしかったんですか?

岩楯:山の魅力、スゴイきついゲレンデを登りきるとようやく御嶽頂上へ続く登山道に入っていき途中で(当時の私の感想としては)突然開けるんです。次第に大きな岩が増えてきて目指す頂上が見えて。そこの岩場を登ったときの爽快感、頂上から先のお鉢で出会う景色の素晴らしさ、池の色、山に引き込まれていく感覚。その後の下りに入って岩場をどうやって下ろうかと考えながら下っているとどんどん抜かれていくんです。この競技は下りを制さないと勝てないんだな。元々負けず嫌いなので初めはマラソンのトレーニングとして始めましたが全く別物だ。ちゃんとした競技として向き合わないと勝負できないなって思いました。そこからスカイランニングが好きになっていきましたね。だから『おんたけスカイレース』は出たいし負けたくない、ここだけは自分のレースがしたいっていつも思ってました。大会があるから行くって言うより、その時期になると御嶽山に呼ばれてるって感覚で行っていました。他の山岳レースが最初だったらここまでスカイランニングに絞って続けることはなかったかもしれません。あまり拘らずにいろんなことをやってたかもしれませんね。最初があの『おんたけスカイレース』で良かったなって思ってます。

一戸:そこからスカイランニングに真剣に取り組んだんですね?

岩楯:スカイランニング協会が立ち上がった年に御嶽山が噴火してしまったんですが、そのとき思いが強くなってスカイランニングが好きだ。やっていこう!そこからスカイランニングをメインでやるようになりました。

一戸:練習はどうしてるんですか?

岩楯:ちょっとスピーディな山登りです。

一戸:下りは?

岩楯:山でもやりますが、初めは公園にも岩場はあるし階段、斜面、木立など工夫すればいくらでも足場の練習はできます。自分で見つけて走りに行ったり、探しながら走ったり。石がゴロゴロしている川原でも練習しますよ、足の感覚が掴めるし。それに、山ではテクニカルな所でハードにやると、ハイカーさんもいますからお互い危ないし怪我の元。だから山歩きが基本です。ここ2年くらいですかね。VKの練習で一気登りもするけど、トレーニングで山歩きをしなきゃいけないって気づいたのは。山歩きをしないと山を知ることができない。どういう特性か?岩の質は?とか、山全体を見ないといけないですね。しっかりとトレーニングするときは山登りをします、歩きますね。主人とザックを背負ってテントを担いで頂上付近まで登ってベースを張って、そこからFAST and LIGHTのスカイランニングスタイルで登ったり下ったり走ったりします。

一戸:ご主人は元々何をされていたんですか?

岩楯:山岳部でした。山が好きなんでしょうね。ロードも走っていましたが、どちらかというとトレランでしたね。普通の道を走っていても何か面白い所はないかなって探しながら走る人で、一緒に走りながら下りを教えてもらいました。最初に私が出た『おんたけスカイレース』には主人は出ませんでしたが、いろいろ調べてくれて、恐らくこういうコースだろうって地図を見てシミュレーションしてくれました。そうしたら本番ではその通りの光景が目の前に現れて、地図から山の状況を読むことも教えてもらいました。写真や映像に写りこんだ山を見て、どこの山か分かるくらいの山好きです。

一戸:スカイランニングを始めたときはお子さんは何歳でしたか?

岩楯:上の子が中学2~3年生位で下の子が中学に入るくらいだったと思います。2年前の香港のレースは下の子が大学受験真っ只中だったのに「言ってくるねぇ」って出場しました。ただ最近は山へ行くのは週末だけで普段はそんなに走らないですよ。走り始めたときの方がガッツリやってましたね、疲労骨折したくらいですから。

一戸:時間の割り振りはどうしてたんですか?

岩楯:子供が小さいときは時間を区切って1時間だけ走ってました。子供が寝ている朝4時に走りに行ってました。時間を管理して走っていましたから1時間走でどれくらい走れるか。どんどん距離が伸びていって面白かったですね。1時間がラクになってきて、子供の成長ととともに使える時間が増えてからは昼間も走るようになりました。

一戸:時間が限られているから頑張れる?

岩楯:子供が成人して学校行事とかもなくなり、自分の自由時間が増えるにつれてだんだんダラケテきているかも。。。いつでも走れるなぁって。仕事が忙しいときはキツキツでやってました。結果、無理をして大きな怪我をして。それからは休むようになりました。

一戸:スポーツするようになってから何か変わりましたか?

岩楯:いつでもやれることがある、集中できること、好きなことを持っていることを子供に見せたかった。「一生懸命やりなさい、最後までやりなさい」って言うのは簡単だから実際に見せたかった。半分くらいは子供に伝えたくてやってました。だから言葉にしていませんね、言葉にしたのは「思ったとおりにやれば」ですね。それは多分伝わっていたと思います。それが良かったことですね。あとは私がしょっちゅうどこかに走りに行ってしまうので早くから子供たちは自立しました(笑) 私が走っていたから走ることは教えられるので、子供とのトレーニングの時間は楽しかったし、山のレースでは表彰台に立てることが多かったので、戦利品=お土産を楽しみに待っていてくれました。食べ物のときはとても喜んでくれたんですが、そうじゃないと・・・

一戸:お仕事はされているのですか?

岩楯:今はやっていないですが、子供が小さいときは子供を相手にする仕事をしていました。朝練習して子供を保育園に送って、また少し練習して仕事へ行く。夜はバタンキューです。

一戸:すごく忙しくて大変だなっていうよりはその方がよかった?

岩楯:丁度よかったですね。って今だからそう言えるけどそのときは必死でしたね。時間に追われてました。でもガツガツ練習しようって感じじゃなくて、できなきゃ子供と過ごそうって思ってました。月曜から金曜まで練習して、土日はレース以外は子供と過ごすと決めていました。子供が小さいときから外へ遊びに連れて行ってましたね。そうじゃないと自分が気持ち悪くて。そこからチョットずつ変化してランニング、マラソン、山へ行くことが入ってきました。

一戸:メリハリがある生活ですね

岩楯:子育てがあるからできないじゃなくて、子育てはとても素晴らしいことで、そこは絶対に優先してやらなきゃいけない。それは自分の母からいつも強く言われていました。お母さんできないならマラソンなんてやめてしまえ!本末転倒だって。お母さんをやることも集中してやりました。それが良かったのかもしれませんね。子供は、子育ては面白い。マラソンは後からでもできるけど子供の1日は絶対に戻ってこないじゃないですか。昨日の子供を見たくても戻れませんから。

一戸:毎日成長しますからね

岩楯:上の子が3歳になるまでは自分のことはやらずに子育てに集中しました。その間は走りませんでしたけどあっちの公園こっちの公園と行ってました。ベビーカーを押して走ってましたね。ひとところで他のママたちとしゃべってるのは性に合わなくて、子供といつも動き回ってましたね。もう手が離れちゃったのでちょっとさびしい、キッズロスですね。友達の子供を見てると羨ましいですね。

一戸:子育てがあった方がいい?

岩楯:子育てしてたときの方がすごく上手に時間を使ってたと思います。ただ、今は自分の子供は手が離れましたけどこの世界(スカイランニング)のジュニアやここ2年くらいでユース世代の層がすごく厚くなりましたから、その子達を見ていると楽しいですね。その下のキッズがそこを目指してくれているのが嬉しいですね。

一戸:低学年から出られるんですね

岩楯:そうですね、この子達が未来を担っていく。この子達が憧れる世界にしないといけないと思っていて、育成が今は楽しいですね。でも、もっともっと広まって欲しい、今は山の近くに住んでないとなかなかやる機会が少ないけど、都会に住んでいる子供も陸上やサッカーをやってて、その子達が自然の中で遊ぶ一つの手段であってもいい。子供にとってはガチガチに競技じゃなくてもいいと思ってます。やっぱり山は楽しいし、子供って不思議で山へ連れて行くと自然と走り出すんです。なぜか急な斜面へ向かって。まずはそんな子供たちがトップの選手をカッコいいと思うようにしたい。コレなんかカッコいいでしょう(パンフレットを見ながら)、スカイランニングはカッコいいが一番!

一戸:絵になりますよね

岩楯:写真で撮ると人が山と一体になるんです。それはこのスタイルにあると思うんですよ。極力何も持たずに身一つで自由がある。決められたところを走るわけでもなく、とにかく山を楽しもうって自由がこの競技にはある。それが絵になるカッコよさだと思うんです。いろんなスポーツがあるけど、確固たるトップの世界が存在していて、そこに次ぐ層があり一般へと広がっていく。トップが憧れの対象にならないと一流スポーツにはならない。ただの趣味には終わらせたくないんです、この世界を。きちんと組織を確立して普及していかないと時間とお金のある大人の趣味に留まってしまう。そうしたくないから子供の頃から育てていきたいんです。JSA( 日本スカイランニング協会 )は、様々な活動を通して、「スカイランニングの普及」、「次世代を担う子供たちの成長」「地域スポーツの発展」を目指しています。

一戸:今目標にしていることは育成ですか?

岩楯:育成とこの世界をもっと広めていくことですね

一戸:すごく遅い人もいるんですか?

岩楯:トップクラスと比べればですが、ゆっくりゴールする選手もたくさんいますよ。

一戸:こんな過酷な競技だとすごくできる人しかいないんじゃないかと思って入りにくい感じがするんですよね

岩楯:70歳くらいのおじいちゃんも登ってます、山登りですから。

一戸:最初から最後まで歩いている人もいるんですか?

楯:もちろん。VKだけでなく、ほかの種目でもスカイランニングでは駆け登れない急斜面が出てきます。歩きますよ。トップ中のトップでも最後まで一定で駆け登れません。スピードハイクというできるだけ速くかっこよく歩くテクニックを使います。

一戸:ホノルルマラソンみたいにゆるい大会で時間制限も無く、おじいちゃんおばあちゃんが最初から最後まで歩いていると出てみようかなって思うんですが、スカイランニングってトレランをそれなりにできる人が行くイメージがあって・・・

岩楯:日本ではそう思われているところがあって、広め方は気をつけないと。と思ってます。でもトップ選手のプロ意識だとか、スカイランニングのブランディングは大事にしながら万人が楽しめるようにしないといけない。まだまだ日本では広まっていないし、山の文化がヨーロッパと違うこともあって理解が難しいですね。ヨーロッパのレースでは、(見た目)おじいちゃんが急斜面を、選手でも応援でも力強く登っています。会場には仲間同士や家族、子供からお年寄りまで。日本でVKというとキツイやつだ。無理。という返事が返ってきますが、VKこそ短いから誰でも参加・応援できるんです。

一戸:そうですね、40kmトレランやれって言われたら嫌ですけど5kmで終わるって言われたらチョット気はラクになりますね

岩楯:5kmよりもっと短い初心者向けコースもあるし、歳をとればとるほど短くていいですよ。あまり負担をかけないように。高所でやりますから、そもそも疲労度が高いんです。身体にかかる負荷は、短い時間だけどそれなりにあるから、キツクないとは言いませんが、自分の体力・能力に合わせてできる競技ですね。スピード登山ですけど大体の人が制限時間内にゴールしてますよ、みんなてっぺんまで行けます。真剣勝負にかけるトップクラスの気迫をその場で感じながら、同じピークを目指せる競技ってあまり無いです。それぞれの楽しみ方があってそれぞれの目的で登る。でも登りきったゴールから見る景色は登った人みんなが得られる。みんな山が好きなんです。

一戸:不思議とみんないい表情してますよね(パンフレットを見ながら)。私もやってみようかな

岩楯:トライアスリートは心肺機能が高いからいいと思いますよ

一戸:トライアスロンは抑えて抑えて最後まで取っておく感じですがVKってどっちかって言うと短時間でどんどん行くって感じですよね

岩楯:VKって短時間だけど、ちゃんとペースを作って最後まで持たせますよ。でも、そんなに考える時間はないから私なんかは出たとこ勝負になっちゃう(汗)

一戸:飽きっぽい性格で長い距離はできないからオリンピックディスタンスにしたけど、自転車に乗りながら飽きてきたなぁって思う瞬間があって。これ以上長いのはできないなぁって思いながらやってるんです。

岩楯:集中できる時間は人それぞれだけど、そんなに長い時間集中できないですよね。ガッっとやってガッと終わる。VKに向いてるかも。是非観に来てください。

一戸:初心者向けのレースってあるんですか?

岩楯:自分の技量に見合った状況や環境でのレースコースなのかを判断することが大事かな。例えばゲレンデを使ったVKであれば、子供から大人まで初めてでもじゅうぶんスカイランニングを楽しめます。VKは単純。てっぺんを目指すのみ、手ぶらでOK。まずはVK。短距離でも標高差はしっかりありますよ。スカイランニングは「走れるもんなら走ってみろ」の競技なんで。テクニカルな部分だけを見てもそこだけがコースではないし、自分でコントロールしていけば危険じゃない。そもそも危険な場所でレースはしないです。観ると危険と思われるかもしれないけど、実はそんなに危なくないんです。安全確保のための指示もあったりしますし。それよりも天候の変化で状況が一変してしまうことのほうがはるかに怖い。何をもって初心者とするか、スカイランニングの競技は初めてでも普段から登山をしていて対応力があれば完全な初心者ではないと私は考えます。スカイランナーは一登山者。チャレンジしていろんな山を踏めば上達は速いですよ。いろんな変化に富んだ山を駆け上り駆け下るから楽しくて魅力がありますね。

一戸:マラソンとかロードはある程度は走らなくてもコースマップとかで分かりますよね

岩楯:スカイランニングは岩場が好物。硬い岩、もろい岩、ヌルっとしていたり。雨が多い山とか山域、季節、地質などいろいろあるので山登りをしないと分からないですね。レースコースを毎回試走するということではなく、海外レースでは試走のじゅうぶんな時間もないし。でも、知らないからワクワクする感じ。好きだから知らない山にも会いに行く。この山を次はどう登ろうか、次はどの山を登ろうか。山に呼ばれてますね。

一戸:スカイランニングに出会って一番良かったことは何ですか?

岩楯:人に出会えたこと。仲間というより人かな。登山者との衝突を避けて走る人は結構いるけど、私は逆で見せなければ知ってもらえない。VKをどんどん観て欲しい、そのために普段から山登りしているときに何をしているか伝えていきます。よく「トレイルルランナーさん?」って聞かれます。「いいえスカイランナーです。」「スカイランナー?」「スカイランニングです」って言って冊子などを渡して競技の説明をします。そうすればその人は知ってくれる。次に会った人にも同じです。そうやってスカイランニングの種を蒔いています。楽しいだけでなくもっと知って欲しい。そこをもっとやっていきたいですね。スカイランニングに出会えて人に出会えた。一つの山に集まる人はみんなだいたい同じだと思ってたけど、登山者の話を聞くと、こんなこと思って登ってるんだとか、中にはその山がホントに大好きで、その山の面白いルートを常に探して登る人がいて、それってスカイランニングに似てて、スカイランナーもお気に入りの山でスカイランニングにふさわしいこのスポーツが根付くルートを探している。たいていはその山とともに暮らしてきた人から教えてもらうことが多くて、そういう人と交流しているうちに知ってたはずの山だけど、実はこんなルートがあったんだって行く度に新しい発見がある。それってすごくステキなことですよね。今ではまた次に行ったら何かあるよって探しながら登るのが練習になってます。山は出会いがあるから楽しい、一人で言葉も交わさずに登ったら孤独ですよね。コミュニケーションを取れば問題も起こらない。トラブルは話さないと無くならない。会わないようにすれば理解は得られない、そこに何も見出せない、お互いに知らないんだから。だからやっぱり人と出会えたことですね。この歳になってこんなに友達が増えると思ってなかった。人と出会うから山は楽しい。山にだけ向き合っててもこの格好(ランパンランシャツ手足丸出し)でいたら絶対声を掛けられるし、逆に下ってくる人に声をかけ、上の状況を聞いて情報を得ることで気をつけることもできる。そうやってコミュニケーションを取っていけば今言われている問題は起こらないと思う。だから私は人のいるところへ行きます、そうやって多くの人と出会えて良かったですね。

それは海外でも同じで世界選手権へ行くと日本とは全く違った山の文化があって、いろんな人が登ってる。その山でレースをするんです。

一戸:橋本ワコさんも同じことを言ってました。人との出会いだって。

岩楯:歳も違うし、それぞれの年代でそれぞれに思っていることがあって、それってとてもいいことで時にはスカイランナー同士で意見が衝突することもあるけど、考えが聞けて話ができるから発展する。それがホントに楽しい。いつまでも話ができる仲間がいるっていいなぁって思いますね。

去年、自分の所属する南関東のチームが中心となり丹沢でイベントをやったんですけど、丹沢の山を知っている山小屋の人、丹沢を管理している人、一般の登山者が理解してくれて助けてくれました。練習するためだけにどこにも寄らずに、ただ登って帰ってくる。それも練習としては大事だけど、たまには山をしっかり見つめて登って、山小屋に寄って自分を知ってもらう、そうすると何かをやろうとしたときにチャレンジさせてもらえる。間違えちゃいけないのは、山をフィールドにしている選手が偉いわけじゃない。みんな山を楽しみに来ている。みんな同じで尊重し合い、絶対に山に謙虚でなければいけないんです。最近山を走れるから偉いみたいな人がたまにいるんです。そうじゃない!それではスポーツとして認められないです。

一戸:女性のスカイランナーってカッコいいですよね

岩楯:まだ日本にはセパレート(ウェア)着ている人はいないんですけどカッコいいでしょ(パンフレットを見ながら)。海外にはいっぱいいるんですよ。すごく速い人でなくてもカッコ良さを大事にしてるんです。やっぱり見た目も大事ですよね、女子のスポーツは何でも同じでしょうけど

一戸:女子がカッコ良くスポーツしてるのっていいですよね

岩楯:(スカイランニングは)最近若い男子選手が増えてきたけど、なかなか女子は増えてこないですね。どんどんトライして欲しいですね。女子にユニフォームのデザインとかメイク、女子のスタイルとかをもっとアピールしないといけないですね。

一戸:海外の選手は日本をどう見てるんですか?

岩楯:海外の選手は富士山を知ってて富士山を登りたいと思ってるはずなんです。だから富士山でVKができいたらいいですね。大々的にメディアに取り上げてもらって。絶対に絵になりますよ。

一戸:最後にスカイランニングをするために何かを犠牲にしたり我慢したことはありますか?

岩楯:スカイランニングをやってて得たものは沢山あるけど犠牲にしたものは何も無いですね。

忙しそうとか頑張ってるねって言われるんですけど、やってて辛くないし、いたって自然で楽しいしラクなんです。走るのは習慣だし無駄な時間を削っただけなんです。価値観の違いだと思います。

子育て、主婦、仕事、スポーツ。全てをバランスさせて自然体で楽しむ岩楯志帆さん。出会いを大切に「山の魅力とスカイランニングの楽しさ。そして、好きなことを持っていることの素晴らしさ」を伝える。これが岩楯志帆流のLifestyle with Sports

スカイランニング協会

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フェイスブック https://www.facebook.com/JapanSkyrunningTeam

Profile - 岩楯 志帆

2016年スカイランニング日本代表。2015年スカイランニングジャパンシリーズランキング2位。子育てをしながらランニングを続けていた2010年に、おんたけスカイレースでスカイランニングと出会う。現在は「スカイランニングの普及」、「次世代を担う子供たちの成長」、「地域スポーツの発展」を目指し、自身も現役選手として走り続けながら2018年世界選手権とユース世界選手権にスタッフとして帯同するなど、選手たちのサポートもしている。

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